申ジエの救済処置は"ズル"なのか

アクサレディス最終日に申ジエが受けた救済処置は本当にズルなのか。R&A規則16.1a(3)/1が根拠となる左打ち採用の判断基準と、合理・不合理の線引きをルールブックをもとに解説します。

申ジエの救済処置は"ズル"なのか

申ジエの救済処置は"ズル"なのか

「あれはルール違反だ」「ズルい」。アクサレディス翌日、SNSはそういう言葉で埋まった。しかし競技委員は規則に従って救済を認めた。批判した人の多くは、そのルールが存在することすら知らなかったのだ。今回の件は、ゴルフのルールを「なんとなく」で理解しているアマチュアにとって、自分ごととして読むべき話だ。


最終18番で何が起きたか

2026年3月末、国内女子ツアー「アクサレディス」最終日の最終ホール。永峰咲希を1打差で追う申ジエが、第3打の場面で競技委員を呼んだ。

ボールは急なツマ先下がりのライに止まっていた。通常の右打ちでは、ライの角度が急すぎてまともなスイングができない状況だ。申ジエは「左打ちでしかストロークできない」と主張し、2名の競技委員が現場を確認。「左打ちの採用は明らかに不合理ではない」と判断し、動かせない障害物からの救済が認められた。救済後、彼女は通常の右打ちでショットを放った。

このプロセスに数分を要したことがテレビ中継で映され、「左打ちにして意図的に障害物に被らせたのでは」「時間をかけすぎ」という批判がネット上に溢れた。炎上した。


ルールを知らないと、自分が損をする

「プロの話だから関係ない」と思うなら、少し立ち止まってほしい。

カート道路に止まったボール、修理地、動かせない障害物。これらからの救済は、競技ゴルフだけでなく一般のラウンドでも発生する。知らないだけで使えていないアマチュアは多い。救済を申告すれば無罰でボールを動かせる状況でも、黙って不利なライから打って余計な打数を重ねている。

今回の騒動が照らし出したのは、「ルール上の権利を行使することへの世間の目」と「実際の規則の間のズレ」だ。申ジエの行動は規則の範囲内だった。それでもここまで批判されたのは、見ている側がそのルールを知らなかったためだ。


「合理・不合理」の線引きはどこにあるか

R&A発行の『ゴルフ規則オフィシャルガイド』規則16.1a(3)/1には、次の記述がある。

その異常なストロークがその与えられた状況において明らかに不合理ではない場合、救済が認められる

ガイドが示す具体例はこうだ。右利きのプレーヤーのボールがホール左側の境界物の近くに止まり、ホールに向けてプレーするために左打ちのスイングを行わなければならなかった。その左打ちの際、動かせない障害物がスタンスの障害となった。この状況では左打ちの採用は「明らかに不合理ではない」と判断され、障害物からの救済が認められる。そして救済処置後の次のストロークは、通常の右打ちに戻すことができる

今回の申ジエのケースはこれに合致していた。2名の競技委員が確認し、規則に則って認めた判断だ。

一方で、日本ゴルフ協会(JGA)はYouTubeに「左打ちの採用が合理的な場合」と「明らかに不合理な左打ちの採用」の両動画を公開している。ただし、その境界を数値や条件で示した明確な基準は存在しない。判断はプレーヤーの申告と競技委員の裁量に委ねられるのが現状だ。

これが今回の炎上の根にある。白黒つけられない部分があるから、見ている側は疑念を持つ。競技委員が適切に判断しても、プロセスが見えにくければ疑問は消えない。

ルール動画を一度確認しておくなら、JGAとR&Aの公式映像が最もわかりやすい。「左打ち 救済」「不合理」で検索すれば出てくる。文章より映像の方が状況をイメージしやすく、記憶にも残る。

ゴルフ規則の理解を深めたいなら、JGA監修のルールブックや公式解説書が一冊あると便利だ。競技に出る前に手元に置いておく価値がある。

ゴルフ競技 ルールブック


マナーへの批判は、ルール論とは別の話

「時間をかけすぎ」「潔くない」という声は、ルール違反への指摘ではない。マナーや姿勢、いわば勝負哲学の話だ。この二つは切り分けて考える必要がある。

視点を変えてみよう。もしこれが「ライダーカップ」のような国別対抗戦だったとしたら。使えるはずの救済を自ら申告しなかった選手は、チームから「勝利への姿勢が足りない」と見なされるかもしれない。勝負の文脈が変われば、同じ行動への評価も逆転する。

個人競技と対抗戦、プロとアマ、最終ホールの優勝争いか否か。「どこまでやるか」の感覚は状況によって変わる。今回の批判の多くは、申ジエが規則を破ったということではなく、「自分ならそこまでやらない」という個人の価値観の違いから来ている。

ルールと倫理が一致するときもあれば、ズレるときもある。自分の立場と文脈を理解した上で判断することが求められる。それはプロも、競技に出るアマチュアも同じだ。

ちなみに、ライが難しい場面でのスイングを支えるのは技術だけではない。足元の安定も大きく影響する。高機能ソックスで実感できる安定感のような話にもあるように、装備の小さな差が体の支えを変えることがある。ツマ先下がりのライで体のバランスを保てるかどうかは、地味だが確実にスコアに関わる。


今回の件から何を持ち帰るか

視点 申ジエの行動 評価
ルール 規則16.1a(3)/1に基づく救済 適正
競技委員の判断 2名が現場確認の上で承認 手続き通り
マナー・勝負哲学 時間を要した救済の申告 見方が分かれる
戦略性 ルールを熟知して行使 競技者として有効

恩恵がある人:

  • 競技ゴルフに参加している、またはこれから出たいアマチュア
  • ルールを「なんとなく」で覚えていて、コースで損している感覚がある人
  • プロの試合を見てルールへの疑問が生まれた人

冷静に距離を置くべき人:

  • ルール動画を見るだけで満足し、実戦で試す習慣のない人(知識より状況判断の練習が先だ)
  • 「プロの話は関係ない」と切り捨てるアマチュア(カート道路からの救済は誰でも直面する)

弾道データやスイングの記録を蓄積しておくと、「自分の通常の打ち方」の基準が明確になる。ライの難しさを判断する際の比較軸にもなる。ショットスコープ LM1のような手ごろな弾道測定器は2万円前後から試せる選択肢で、練習場での精度確認に使いやすい。


疑問から入ると、ルールは身につく

申ジエは「ズル」をしたのか。答えはノーだ。 競技委員が確認し、R&Aの規則に則って認められた救済処置だった。

ただし、「ズルではないが、そこまで申告する選手は少ない」というのも実情だ。競技ゴルフでルールを熟知して使いこなすことは、戦略の一部でもある。

次にプロの試合で救済の場面があったら、「なぜ認められたのか」を考えてみてほしい。条文を丸暗記するより、疑問から入る方がずっと記憶に残る。そして自分がコースで同じ状況に立ったとき、黙って損なライから打つより、一度競技委員を呼ぶ選択肢を持てるようになる。

参照元

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